私が3人のわが子の子育てに奮闘している時代、スマホはまだなくて、子どもたちはゲームボーイ(任天堂)で遊んでいました。3人の子どもが仲良く1台のゲーム機を共有していたので、ゲームを長時間にわたって続けることはなく、今の保護者のように、スマホやゲーム機の利用法に不安を覚えることや悩みを持つことも幸いにありませんでした。
最近、新聞やテレビを含む、多くのメディアが子どものスマホ依存やゲーム障害の問題を取り上げ、あたかもこれらのデジタル機器が悪者のように扱われることが多くなりました。スマホやゲーム機が子どもに与える影響を考えることもなく、子どもの生活へ自然に入り込んだ経緯があるので、この悪影響は誰の責任でもないと思います。ただし、2019年5月世界保健機関がゲーム障害を病気として認定してからは社会の認識が改まったように感じます。
今回は、このようなデジタル機器の中から特にスマホが子どもの発達に及ぼす影響と、スマホの正しい利用法の2点について書かせていただきます。
子どもの発達や成長にスマホは影響しますか?
子どもは親や兄弟との関わりや遊びを通して、いろいろなことを経験し学びながら成長します。言葉を覚え、運動が上手になり、社会性や情緒を育みながら日々を過ごします。スマホからは得られないリアルな体験こそが子どもを豊かにし成長させます。反対に、スマホはこのような経験や貴重な時間(2度とは戻らないかも知れない!)を子どもから奪っています。言語学者のパトリシア・クール博士は、「乳児期の言葉の発達にはホンモノのヒトとのやりとりが必要である。」と言っています。タブレットやスマホの画面に映し出されるヒトは、子どもにとってリアルなヒトなのでしょうか? 五感を通して触れあえるヒトこそがリアルだとすれば、それはお父さんやお母さん、ご兄弟しかないはずです。ちなみに“スマホに子守りをさせないで!”(日本小児科医会の啓発ポスターより)というキャッチフレーズはこんな考えに根ざした小児科医から保護者の方へのお願いです。
スマホの上手な利用法はないですか?
スティーブ・ジョブズはアイフォンを世に出した人ですが、彼が自分の子どもにはこれを使わせなかったというのは有名な話です。その便利さの裏に隠れた問題点に早くから気付いていたからだと言われています。2016年にアメリカでは1歳半までのデジタル機器の利用をできるだけ避けるようにと保護者に向けて提言がでました。早くにデジタル機器に親しむことが、将来のスマホ依存やゲーム障害の温床になることが報告されたからです。反対に、これほどまでに社会に浸透した便利なスマホを使うなというのもなかなか難しいとも感じます。何にしてもジレンマを覚えますが、2歳頃からであれば親の管理のもとに時間を制限して利用することを私はある程度受け入れています。極端な制限をするよりも自制心を育てて、上手なスマホ利用法を経験させる方法もあるのではないかと考えるからです。この場合、子どもをスマホ任せにせず、スマホ利用する子どもを親がしっかり見守ることが以前にも増して大切になります。
最後に、保護者の方へのささやかなお願いがあります。スマホ時代だからこそ、スマホの画面よりも子どもの顔をもっと見つめて、愛しむことで本来の子育てのあるべき姿を取り戻してみませんか?
今回の先生
福井県済生会病院 小児科 主任部長
岩井 和之先生