子育てはなかなか親の思う通りにはいかないものです。

乳児健診なんかで「小児科の先生はさぞかし、いい子育てをしているのでしょう」と保護者から尋ねられることがあります。そんな時、「残念ですが私の子育ては理想にはほど遠いものでした」と謙遜でもなく、正直にお答えしています。

子育てはずっと現在進行形で進むので、過去に戻り、やり直すことができません。親は常に子育て初心者であるのにも関わらず、子どもが誕生した日から手探りの状態でいきなり子育てに取り組み始めます。子育てについての手厚い教育、研修、指導もありません。乳児健診や集団健診、保健師への相談などが若干利用できますがとても十分とは言えないのが現状でしょう。

「本当にこれでいいのかなぁ」と不安をずっと抱えながら、子どもが自立するまでの少なくとも20年ほどの時間を家族として過ごします。大いなる成長と予想もしない変化を遂げる子どもの傍で、「あぁ、これでよかったのかなぁ」「何となくいい感じかなぁ」という安堵感や達成感、「もう少し子どもと向き合っておくべきだったかなぁ」、「私の育て方のせいで今こうなのかなぁ」といった後悔や反省などを折りにふれて感じながら歩み続けます。

3人のわが子が10歳を過ぎる頃になって、子育ては思いどおりにならないからこそ、そのことが子育ての醍醐味につながるのだということに私はようやく気付きました。そして、親としての自分自身に完璧を求めず、「ま、いいか」と楽観的に考えて、いろいろなトラブルを受け流すようになりました。子どもとの距離感や関わり方についても、「ま、いいか」と思うことで随分と気持ちが楽になりました。考え方をちょっと変えるだけで、子どもとの関係を楽しめるようになったと思います。子育てには親としての責任を伴いますからいい加減なことはできませんが、「ま、いいか」と自分を許すことも大切だということを学びました。

いい子に育てたいという親の願いは普遍的なものですが、これが叶うことはなかなか難しいようです。子どもは個々に違っていて、その子なりの育ち方があるからです。花を育てるように無理をしないで自然に育てることが大切だと私は思います。子どもと共に人生を歩みながら、花を愛でるように、その成長を楽しみ、喜び、愛おしむことができれば、それだけで十分だと思います。ある意味、親は花づくりの職人と言えるかもしれません。水や肥料をやり、お日様に当てて、どんな花をつけるかを期待し成長を見守り続ける姿勢こそが子育ての醍醐味ではないでしょうか。

今回の先生

岩井 和之先生

福井県済生会病院 小児科 主任部長

岩井 和之先生

福井県済生会病院

社会福祉法人 済生会支部
福井県済生会病院

福井市和田中町舟橋7番地1

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