診察室で保護者の方から、「スマホで動画を見せても大丈夫でしょうか」「タブレットのゲームは何歳からならよいのでしょう」と尋ねられることがあります。その言葉の奥は、「わが子のために最善のことをしたい」という親の深い愛情があります。今の時代、スマートフォンやタブレットは生活の一部です。家事に追われるときや外出先で、少しだけ動画に助けてもらうこともあるでしょう。そのような子育てを責める必要はありません。子育ては理想どおりには進まないものだからです。

けれども、3歳頃までの子どもの脳は、一生のうちで最も大きく成長する時期です。この時期に脳を育てるのは、画面から流れる映像ではなく、人との関わりや実際の体験です。抱っこされるぬくもり、目を合わせて笑い合う時間、絵本を読んでもらう声、公園で風を感じながら遊ぶ経験。その一つひとつが、言葉や考える力、感情や社会性の土台を育てていきます。

世界保健機関(WHO)や米国小児科学会は、2歳未満ではビデオ通話を除き画面視聴はできるだけ避け、2〜5歳でも1日1時間以内を目安とするよう勧めています。これはスマートフォンが悪いからではありません。画面を見る時間が増えるほど、睡眠や遊び、そして親子の会話という、子どもの成長に欠かせない時間が少しずつ置き換えられてしまうことを心配しているのです。

幼い子どもは、人と気持ちを通わせながら学びます。画面の中で犬を見るより、「わんわんだね」と家族と一緒に話しながら見るほうが、言葉も心も豊かに育ちます。もし動画を見るのであれば、一緒に楽しみ、見終わった後に現実の遊びへつなげてあげてください。

私がお伝えしたいのは、「スマホを使ってはいけない」ということではありません。大切なのは、スマホが子どもの時間の主役にならないことです。忙しい日は動画に助けてもらってもよいでしょう。その代わり、1日にほんの10分でも構いません。画面を置いて、子どもと目を合わせ、話しかけ、一緒に笑う時間をつくってください。子どもは将来、どんな動画を見たかは忘れてしまうかもしれません。しかし、一緒に読んだ絵本の声や、手をつないで歩いた帰り道、抱きしめてもらった温もりは、心の奥に静かに残り続けます。その記憶が、人を信じ、自分を信じる力へと育っていくのです。

3歳までの子どもの脳を育てる最高の教材は、最新のアプリではありません。保護者の笑顔、優しい声、そして何気ない毎日のふれあいです。その時間こそが、子どもの未来を支える、何より豊かな贈り物になると私は信じています。

今回の先生

岩井 和之先生

福井県済生会病院 小児科 主任部長

岩井 和之先生

福井県済生会病院

社会福祉法人 済生会支部
福井県済生会病院

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